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2015年11月24日火曜日

『チャイナ2049』 ・・石原莞爾 『世界最終戦論』 の中国版

「チャイナ2049」
秘密裏に遂行される 「世界制覇100年戦略」

マイケル・ピルズベリー著(野中香方子訳)
森本敏(拓殖大学特任教授、元防衛大臣)解説
(日経BP社 2000円)

要約で伝わるような内容ではないので、とりあえず序章と第一章から、適宜抜粋して紹介します。
体調次第で何時終わるか約束できませんので、お急ぎの向きは購入してお読みください。

目次
序 章 希望的観測
     瞞天過海・・天を瞞きて海を過る 『兵法三十六計』第一計
第1章 中国の夢
     天無二日 土無二王・・天に二日無し土に二王無し 『礼記』曾子問
第2章 争う国々

第3章 アプローチしたのは中国

第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン

第5章 アメリカという巨大な悪魔

第6章 中国のメッセージポリス

第7章 殺手鋼

第8章 資本主義者の欺瞞

第9章 2049年の中国の世界秩序

第10章 威嚇射撃

第11章 戦国としてのアメリカ

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序 章 希望的観測
     瞞天過海・・天を瞞きて海を過る 『兵法三十六計』第一計
つづく
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第1章 中国の夢
     天無二日 土無二王・・天に二日無し土に二王無し 『礼記』曾子問

2013年3月、習近平が主席に就任したとき、・・・西側の観測筋に広まっていた見方は、「この黒い髪をふさふさとはやし、温和な笑みをたたえた害のなさそうな60歳の男は、ゴルバチョフのような改革者で、古くからの警戒を解き、西側が長く夢見てきた民主主義の中国をついに実現するだろう」 というものだった。しかし、まもなく彼には彼の夢があることがわかってきた。世界のヒエラルキーにおいて中国にしかるべき地位を取り戻させるというものだ。それは1949年に権力を掌握して以来、共産党が渇望してきたことでもある。その1949年に100年マラソンは始まった、と中国の指導者たちは考えている。習主席はタカ派が掲げる 「復興の路」 というスローガンを採用した。
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北京の天安門広場の端に、1949年に毛沢東の命を受けて作られた、ビルの10階ほどの高さのオベリスクが立っている。・・公認ツアーガイドは、通常、そこへ外国人を案内しようとしない。仮に西側の人間が自分でそこへ行ったとしても、大理石と花崗岩からなるオベリスクに彫られた中国語には、英語の案内が添えられていないので、意味はわからないだろう。実のところ、このオベリスクは、マラソンを最初から支配していた思想を詳しく語っている。
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この巨大なオベリスクは、ネット上では 「人民英雄記念碑」 とありきたりな名前で紹介されているが、実際には、ヨーロッパの列強に強いられた 「百年の屈辱」 による 「中国の嘆き」 の象徴と見なされている。
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アメリカ人旅行者は毎日のようにオベリスクのそばを歩き、遠くから写真を取るが、そこに書かれているメッセージには気づかない。
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19世紀の後半にヨーロッパの列強は、衰退しつつあるオスマン帝国の別称 「ヨーロッパの病人」 になぞらえて、中国を東アジアの病人と呼んだ。
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「外国人はわたしたちのことを東アジアの『病人』と呼ぶ。野蛮で劣等な民族と見なしているのだ」 と、革命家の陳天華は1930年に苦々しげに書いている。その苦しみは、中国が世界のヒエラルキーの頂点というしかるべき地位を回復するまで癒されないだろう。
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20世紀初頭、中国の作家や知識人は、チャールズ・ダーウィンとトマス・ハクスリーの著作に魅了された。特にダーウィンの生存競争と適者生存という概念は、中国が西洋諸国に味わわされた屈辱に復讐する方法として共感を呼んだ。
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翻訳家にして学者、改革者でもあった厳復は、ハクスリーの 「進化と倫理」 を最初に中国語に翻訳した人と考えられている。しかし、彼は重大な間違いを犯した。 「自然選択」 を 「排除」 と訳したのだ。それがダーウィンの思想についての中国人の考え方を支配するようになった。つまり、生存競争で負けたほうは弱者と見なされるだけでなく、自然界であれ政治的世界であれ 「排除」 される、と彼らは考えたのだ。 「弱者は強者に飲み込まれ、愚か者は賢人の奴隷になり、結局生き残るのは(中略)時代と場所と社会環境に最も適した者だ」 と厳復は書いている。また彼は、「西洋は劣等な民族はすべて、よりすぐれた民族に滅ぼされるべきだと考えている」 とさえ書いている。

1911年に辛亥革命を起こし、「近代中国の父」と称される孫文は、民族を存続を基礎に置いた。それは列強との闘争を、白色人種による「人種の絶滅」の脅威,つまり黄色人種を従属させ、抹殺さえしようとする動きに対する抵抗と考えたからだった。

(関口注: 司馬遼太郎も中国要人から直接聞いているようです
http://byoshonikki.blogspot.jp/2011/04/2011410.html

このテーマは1949年に再び採用された。毛沢東の著作には、ダーウィン的な思想が散見される。毛が影響を受けたある翻訳者は、二つの人種、つまり黄色人種と白色人種が将来戦うことになり、黄色人種が戦略を変えないかぎり、「白人」が優勢になるだろうと結論づけている。カール・マルクスを知る前から、毛とその一派は、中国が存続するには、過激な長期戦略によって中華民族の独自性を守らなければならない、と考えていた。こうして中国共産党の戦略思考は、「容赦ない競争世界における生存競争」という概念に支配されるようになった。

1930年代に国民党軍に敗れた紅軍(中国共産党)が行った有名な長征(徒歩での大移動)の間、毛は本を一冊だけ携えていた。それは西洋には並ぶもののない歴史を教訓とする国政の指南書、『資治通鑑』 だった。・・その書の核となるのは戦国時代の兵法だが、紀元前4000年まで遡る逸話や格言も収められている。特に 『礼記』 に拠るものは、中国人が魅了されたダーウィン的な思想と一致する。
曰く、「天無二日」(天に二つの太陽はない)、世界の秩序は本質的にヒエラルキーを成す。そしてその頂点には、常に唯一の統治者が存在するのだ。

つづく
【以下11月20日追加】
アメリカの中国専門家が犯した最大の間違いの一つは、この 『資治通鑑』 を軽んじたことだ。この本は英訳されなかった。1992年になって初めて、わたしたちは 『資治通鑑』 が毛沢東の愛読書だったことを知った。・・鄧小平や他の指導者もその本を読んでいる。また、中国の高校生は、その本から抜粋した文章を書き写して学ぶ。そこには、戦国時代から伝わる策略の用い方、敵の包囲を避ける方法、好機が訪れるまで既存の覇権国を自己満足に浸らせておく方法などが記されている。

(関口注: 同様に19世紀以降の西洋人が犯した最大の間違いの一つは、幕末の武士の座右の書 『近思録』 や 『伝習録』 を読まなかったことだ。 例えば 「人事を尽くして天命を待つ」 と言う倫理観などは、嘗ての特攻隊員はもとより今日のお笑い芸人にすら共有されている
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%9D%E7%BF%92%E9%8C%B2 

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アメリカの諜報機関の職員は、中国がソ連の従属的パートナーという立場に満足していないという報告を信じようとしなかった。総じてアメリカ人は、中国のように遅れた国がソ連のライバルになり、やがてはアメリカと対峙するなどという見かたは馬鹿げていると思っていたのだ。
しかし、それを笑わない人々がいた。ソ連の指導者たちだ。彼らはアメリカが気づくずっと前に中国のたくらみを知っていた。100年マラソンについての最初の情報はモスクワからもたらされた。
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わたしがソ連の人々からから得た最も重要なメッセージは、中国人は世界の頂点の地位を回復するという歴史的野望によって動いている、というものだった。
「中国の歴史が語るのは、中国人は自国を世界最強の国にしようとするが、チャンスが訪れるまでその野望を隠すということだ」 とクトポイとその同僚は教えてくれた。
さらにクトポイは、アメリカが犯しうる最悪の誤りは、中国を軍事的に支援することだ、と警告した。
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中国人はかつてソ連を利用したようにアメリカを利用しようとしていた。
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それから40年後、習近平は中国共産党書記長(主席の前段階)に就任してすぐ、それまで隠されていた中国の野望を認めた。最初のスピーチで、かつて中国の指導者が公式の演説で述べたことのない 「強中国夢」(強い中国になるという夢)という言葉を口にしたのだ。・・ウォール・ストリート・ジャーナル紙のトップ記事によると、習は、2049年をその夢が実現する年としている。
毛沢東が中国の指導者となり共産主義国家を樹立してから100年目に当たる年だ。
習主席が 「強中国夢」 と言ったのは、たまたまでもなければ、不注意からでもなかった。習主席の演説を聴いた何人かの中国人から聞いてわかったことだが、中国の大学で教育を受けた人や軍人は、習主席の 「強中国夢」 と言う発言を聞いてすぐ、その意味を理解したそうだ。

 「強中国夢」 は、かつて西洋では存在が知られていなかった、ある本の内容を暗に示唆している。その本、『中国の夢』 は、2010年に中国で出版された。著者の劉明福は、人民解放軍の大佐で、人民解放軍の将官を育てる人民解放軍国防大学の指導的学者でもあった。わたしが 「100年マラソン」 という記述を初めて見たのも、その本においてだった。『中国の夢』 は中国でベストセラーになった。
その本には、どうすれば中国はアメリカに追いつき追い越し、世界の最強国になれるかが書かれている。ソ連がアメリカを凌駕出来なかった理由を分析し、1章を割いて、中国が採るべき八つの方法を列挙する。劉が採用した 「100年マラソン」 と言う表現は、「マラソン」 が英語からの借用であるにもかかわらず中国全土に流布した。
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「中国とアメリカの競争は 『ピストルでの決闘』 や 『ボクシングの試合』 と言うよりむしろ 『陸上競技』 と言うべきだろう。それは 『マラソン』 のように時間がかかる。そしてマラソンが終わったとき、地球上で最も高潔な強国、すなわち中国が勝者となる」 と劉は息巻く。

2011年、劉はその挑発的とも言うべき著書についてABCのインタビューを受けた。彼は、・・・中国が西洋と戦い、勝利を収めるとしても、その過程は平和に進むと言うことを強調した。しかし、中国語で書かれた原書を読んでみると、トーンはずいぶん異なるようだ。アメリカの弱みを研究し、西洋が中国の本当のゲームプランに気づいたらすぐアメリカを打倒できるよう、準備しておくことが重要だと劉はほのめかしている。
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ウォール・ストリート・ジャーナル紙が2013年に報じたように、『中国の夢』は国家の統制化にあるすべての書店で「推薦図書」の棚に飾られた。

(関口注: 石原莞爾が1940年に発表した日米による 『世界最終戦論』 を思わせます。スケールと言い、周到さと言い何らかの影響がなかったとは思えません。石原がその布石として打ったのが満州国の建国で明治維新から60年余り後の1932年、そのころ彼は日米の戦力が拮抗するまであと40年かかるから、それまでは自重すべきだと主張したそうですが、結果的には日本は30年早く決戦に持ち込まれ「夢」は敗れ去りました。いま中国は建国70年を経たばかりで100年マラソンのゴールまでまだ30年早いのに決戦に持ち込まれようとしているとしたら、・・・今更のように欧米覇権勢力の強かさを思い知らされます。もしそうだとしたら、中国の意図の如何に関わらず、判官贔屓の応援をしたくなってしまいます。
嘗て蒋介石の国民党は日本を消耗させる為の捨石として利用されました。今回は、日本が中国を消耗させる為の捨石にされると言う悪夢が実現しないとはかぎりません
http://www.mskj.or.jp/report/2803.html


【以下 日経ビジネスオンラインのインタビュー記事で代えさせていただきます】
https://www.facebook.com/masuteru.sekiguchi/posts/929138117166402?pnref=story

4 件のコメント:

  1. 著者は、裏の裏をを読めと繰り返し言っています。
    まだ序章と1、2章しか読んでいませんが、彼の中国理解が本物であることは確かです。

    しかし、一番肝心なことは、裏表紙に殆ど気がつかないくらい薄い字で書かれている前書きです。
    そこには、出版の前にCIAとFBIの現役の友人に米国の国益に抵触するようなデリケートな記述は削除してもらったと断ってあります。
    つまり、この書は中国の長期戦略に対する米国内外への警告の書であると同時に、それに対抗する米国のアンチプロパガンダの書でもあるとも言えます。

    それにしても中国古典に精通し、中国強硬派(ベストアンドブライテスト)の内部文書や言説に潜む春秋・戦国以来の国家戦略を読み取る力量は石原莞爾の上を行くでしょう。

    彼はこの書の中では日本について一言も触れていませんが、日経記者とのインタビュー記事(11月23日「グローバルオピニオン」欄、秋田浩之編集委員)では、最後に一言、こう述べています。
    「米国は米中秘密協力について、日本には、一切教えてこなかった。日本は憲法の制約上、他国に軍事支援できないうえ、秘密工作を担う機関もないので、知らせる必要はないと考えられてきたのだ。米中間でどのような協力が進められているのか、日本は今からでも米政府に情報の提供を求めるべきだろう」

    この忠告をを軽視したら折角の書も猫に小判です。
    私たちは、中国やアメリカが日本をどのような駒として使おうとしているのかを読み取るヒントを与えられたと認識すべきです。

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  2. 本書では、著者を含めて米国政府や議会の主流派も中国共産党主流派の偽装戦略に騙され続けてきたし、今なお気づいて居ないかそう思いたくない米国人が多数を占めていると述べています。
    しかし、そうした中国の偽装工作を支援してきたのが、世銀を筆頭とする米英の国際主義者たちだったことも指摘しています。ということは、米国政府や議会・国民を騙してきたのは中国だけではなく、中国の野望に気づかぬ振りを装いながら、米国と対抗しうる強国に育てて来た国際主義者たちだったと言うことになります。
    果たしてこれは、中国共産党と国際主義勢力の騙しあいなのか、それとも両者の結託による出来レースなのか、誰がプレイヤーで誰が駒なのか、軽々に判断できるような構図ではなさそうです。

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  3. 馬淵睦夫氏によれば、米国も中国も国際金融資本にとっては棋士ではなく駒に過ぎないそうです。
    私も基本的にはそう思いますが、この場合、将棋や囲碁の駒と違うのは駒である日米中三者が意思を持っていることです。つまり、棋士の指示通り動くとは限らないということです。
    従ってこのゲームは日・米・中・国際主義勢力相互の騙しあいと妥協の知恵比べと考えれば当たらずとも遠からずではないでしょうか。
    https://www.facebook.com/masuteru.sekiguchi/posts/929138117166402?comment_id=932982810115266&comment_tracking=%7B%22tn%22%3A%22R%22%7D&pnref=story

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  4. この真淵氏の見解を具体的に裏付ける事実を語っている方がこの人です。

    東アジア情勢に関する伊藤 貫氏の現状認識
    http://byoshonikki.blogspot.jp/2016/01/blog-post_27.html

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