メディアリテラシーと言う言葉がある。 パソコンが使えるかと言うような技術論ではない。 新聞・テレビ等における報道や記事の文面からは直接読み取れない意図を読むことである。 これは、朝日新聞社出身の同僚教授から聞いた話だから確かである。
そこで、今回は、日経朝刊2011.10.26の春秋欄を例にとって解説を試みることにする。
これは、一種の講義だから、正確を期すため敢えて全文を転載することにした。
関東軍の参謀だった石原莞爾が、のちの東京裁判で証人として言い放った言葉がある。 日本の戦争責任は日清・日露までさかのぼる・・・と迫る検事に、石原は「それならペリーを呼べ」。 幕末の開国こそすべての始まりだというわけだ。
平和にやっていた島国に黒船で押しかけ、侵略主義に走らせたのは米国じゃないか。 昭和陸軍の鬼才らしい反撃だが、外からの圧力を陰謀の如く受け止め、被害者意識にとらわれるのは幕末以来の日本人の習い性かもしれない。 環太平洋経済連携協定(TPP)への警戒論にも、そんな心情が見え隠れしている。
「TPPに入ったら日本の農業は壊滅し、地域社会も崩壊する」と農協などは激高するばかり。尊皇攘夷ならぬ尊農攘夷の様相だ。過保護にするだけが尊農でもないだろうが、ここにきて「医療も危ない」「外国人労働者が殺到する」と方々からの加勢が目立つ。姿は知れないのに、日増しに大きくなる影である。幕末の開国も、すったもんだの末に通商が始まった。しかし関税自主権を奪われ、小村寿太郎が条約改正にこぎ着けたのは明治の末。やっと本当の攘夷を果たしたと小村は語ったという。かくも苦心の関税自主権を手放すのか、と息巻くTPP反対論者もいる。ペリーのもたらした呪縛の何という強さか。
以上が全文である。
大学入試の現代文の設問で、「この文章で筆者は何を言いたいのか、〇〇字以内で述べよ」・・と言われても、私だったら全く判らないとしか答えようがない。 何故なら、文面で見る限り、何も結論らしきことを言っていないのだから。
TPP に反対する人たちに悪印象を与えることを狙っているらしい口振りだが、はっきり賛否を明らかにしているわけではない。この匿名の筆者は、その真意を問われたら恐らく相手によって適当にはぐらかすに違いない。 これが、マスメディアが、はっきりした意図を持ちながら、証拠を残さずに読者をその気にさせる巧妙かつ卑怯な常套手段である。
ここで、細かいことを議論し始めたら限がないので、一応、私自身のメディアリテラシーのレベルでの推測を述べておこう。もし、春秋子に反論があるなら、実名でお願いしたい。
①春秋子は、TPPの是非について確信を持っていない。
②しかし、TPPに反対する人たちには組しないか、その振りをしていた方が安全だと思っている。
③そこで、外圧脅威論という一般論に摺りかえるという常套手段に訴えることにした。
④さらに、一般論を補強するべく、石原莞爾や、東京裁判を持ち出した。
⑤返す刀で石原の気概ある正論を被害者意識の一つに貶めると言う効果も狙った。
勿論、他にも、無数の解釈がありうる。
たとえば、今日(2011.11.8)の同紙朝刊一面の署名記事では、論説主幹の芹川洋一氏が、まことに明快な開国論を披瀝されている。 先の春秋欄の記事が書かれてから2週間の間に情勢がはっきりしてきたので、旗幟鮮明にされたのか、あるいは、日経社内でも異見が対立していたのか・・・。 われわれ部外者は、いくらでも想像できるが、そんな無責任な憶測に時間を費やしても意味がない。
私自身、卑怯者にはなりたくないので、自分の意見を述べておく。
①TPPに代わる選択肢は、見当たらない。(米国の国益に真っ向から対抗する力はない。)
②しかし、外圧は、常に警戒しなければ、裏に潜む真の脅威を見落としかねない。
③石原莞爾は、日米の戦力が拮抗するには、数十年かかるから、それまでの間は満州国から一歩も南進すべきではないと、非戦論を唱えた故に陸軍の中で孤立した愛国者であり、侵略主義者でもなければ外圧脅威論者でもなかった。 明治維新において、日清朝連合艦隊で欧米に対抗すべしと説いた勝海舟に比肩すべき気概に満ちた具眼の士である。
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TPPは、トランプの反対で米国ディープステートの手から安倍晋三の手に引き渡されることによって毒抜きされて建前通りの理想的開国論に変身することになった。安倍ートランプ路線の絶妙な勝利である。
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