日経経済教室が12月9日から3日間に渡って3人の論者にアベノミクスの当否を論じさせました。
各論文の冒頭に掲げられた論旨とそれに対する私の意見は以下のとおりです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9日:斎藤誠 一橋大学教授(マクロ経済学)
アベノミクス否定論
①「15年デフレ」の正体は海外への所得流失
②原料高と輸出競争激化で交易条件が悪化
③尋常でない財政と金融政策で将来につけ
関口評
①②に対して③(アベノミクスの第1、第2の矢)は百害あって一利なしと断定し、アベノミクスが、経済実態の誤認に基づくピント外れの処方箋だと言う論旨は、理論的には正しいが、政治的現実を無視した理想論で、それ対する代案が、交易条件の改善と構造改革の効果が上がるのを待つべきだと言う抽象的なものでしかないのでは、まさに評論家の空論と言うしかない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10日:嶋中雄二 三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長
アベノミクス肯定論(推移は想定内)
①異次元緩和は円安や資産高通じ需要刺激
②マネー供給は1年半後に名目成長に寄与
③中身の無い奇策ではなく理論的に裏付け
関口評
景気循環論、景気予測論の第一人者だけあって、黒田日銀の異次元緩和が正統的な金融政策ルール(マッカラム・ルール)を基本とし、それに為替変動や政策実施と効果発現のタイムラグを見込んだきわめて合理的な政策であること、実績データの観測結果が、想定の範囲で推移していることなど、アベノミクスの第1及び第2の矢が有効に機能していることを明快に説明している。
したがって、今後はいかにして第3の矢を効果的に放つかと言うことになるが、それは氏の専門外であるので、一切触れられていない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11日:深尾京司 一橋大学教授(国際経済学、マクロ経済学)
アベノミクス肯定論(今がチャンス)
①日本は輸出拡大と経常収支の黒字が必要
②米国の量的緩和解除、為替相場調整の好機
③デフレ脱却後は成長戦略通じ需要創出を
関口評
第1及び第2の矢に関しては、米国に余裕が出てき始めた今がチャンスであり、この好機を逃がすべきではないと指摘した上で、日銀が余力を保持しているうちに第3の矢、成長戦略の発動が必須であると言う警告は、真剣に受け止めるべきであろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3者の論旨を全体として見ると、嶋中氏の肯定論は短期の不況脱出策としての第1及び第2の矢が合理的な政策である事を示すものであり、深尾氏の肯定論は、それが中長期に渡る成長軌道に乗るための条件を指摘するものだと考えることが出来る。
そして、斉藤氏の否定論は、アベノミクス自体の効果を否定すると言うよりも、その破綻に繋がり兼ねない外部要因や国内既得権構造の存在を警告したものと捉えるべきだろう。
まさに現下の日本経済は綱渡りの中間点に差し掛かったところであり、安倍政権であろうとなんであろうと、この綱を渡りきらない限り展望が開けるとは思えない。
与野党、国民ともに綱を揺さぶるようなことはすべきでない。
殺すなら渡りきった向こう岸で待ち伏せしていれば良いのだ。